やりたいことを“役に立つこと”に、そして“サービス”へ変換する場所
PERCHを「やりたいことを“サービス”へと変換する場所」と語るのがPERCHメンバーの1人で、株式会社K-relationsの代表取締役を務める小林健太郎さん。同社が手がける、スマホの写真がその場で缶バッチになるサービス「スマ缶」は、PERCHがきっかけとなって生まれたと語ります。起業以来10年以上にわたって映像制作専門だった企業がゼロから作り上げたサービス「スマ缶」は、わずか数年でJR秋葉原駅構内で開催された「劇場版『シンカリオン』公開記念イベント」で採用されたほか、大手ペットショップのリニューアルキャンペーン、八景島シーパラダイスなどで引っ張りだこの人気を誇るサービスへと成長を遂げています。今回は、「スマ缶」の“誕生秘話”から、PERCHの魅力に迫ります。
サービス開始直後から、各地で人気を博した新サービス「スマ缶」
─まずは「スマ缶」について教えてください。
小林:これまでの映像制作の仕事とは一線を画す「自社提供サービス」として初めて、2018年に「スマ缶」を立ち上げました。
要は、スマホで撮影した写真から、オリジナルフレームの缶バッチをユーザーがその場で作れるサービスです。富山城で行われた甲冑体験「SAMURAI EXPERIENCE」の記念グッズとして、特設スポットで販売されたのを皮切りに、大型ショッピングセンターでの集客イベントや、地域の夏祭り、新店オープンのノベルティーなどに採用されるようになりました。PERCHの最寄り駅のJR代々木駅構内でポップアップストアを期間限定でオープンした実績もあります。観光地だけでなく、地元の人たちにも喜んでもらえるアイテムとしても活用できると感じ、サービスの幅が広がったように思います。
「スマ缶」は、提供するものが手で触れられる物体になるから、映像と比べれば実業というか、ものを作る仕事に近いとは思います。
─映像制作とはまったく違うジャンルのサービスを立ち上げようとした理由は?
小林:人生の目標は「死ぬまで作り続けること」というほど昔から作ることが好きでした。大学時代にはずっと映画を作っていて、卒業後すぐには就職はせず2年くらいぶらぶらしてから、映像制作の会社に入社しました。プラモデルでも何でも常に作っていたいという欲望があって、映像を仕事にしたのも、総合芸術と称される映画なら一番自由度が高くて、たくさん作れると思ったからです。小道具一つとっても種類が豊富だし、撮影技術も追求できます。台本を書くのは撮影技術とはまた違って文系的な要素もあります。
だけど映像を作り始めてみたら「ものを作っているようで作っていない感覚」に突き当たったんです。大学を出たてのころ、道路工事をしている人を見て「俺は道路も作れない。何の役に立てるんだろう」って思ったことがありましたが、それと同じような気持ちでした。
─実際の製品をお客さんが手に取れるという点は、「スマ缶」と映像作品との大きな違いですよね。
小林:お客さんが撮った写真をその場で缶バッチにしてあげると、ものすごく喜んで「ありがとう」っていってくれるんですよ。だって、ものを買った方がありがとうなんて、企業との仕事ではあまりいわないですよね。「なんでこの人たちが喜んでくれるんだろう?」と思って。その期待に応えられるようにしたいから、やめられなくなったんですよね。
─「現実を楽しく変換する文化を創る」という企業理念にも、「スマ缶」はカチッとハマっている気がします。
小林:実際は逆ですね。映像制作を続けながら「スマ缶」をやっているときに、現実を動画にする映像制作も、写真を缶バッチにする「スマ缶」も、「変換」という共通項があると気付いたんです。
どちらも「変換」であるならば、これまで受注仕事だった映像やミニチュア動画、VRの制作事業も、本当は「スマ缶」みたいな自社が提供するサービスとして立ち上げられるはずで、そうしないといけないと思い始めています。NetflixとかYouTubeが身近になって、映像が湯水のようにしかも低価格で見られる時代に、あえて自分が映像を作る意義があるのか?という疑問は常に自分の中にあって。ただ、見る人自身が自分で簡単にいい映像が撮れたり作れたりするツールを作るっていうところまでサービスとして到達できたら、僕がやる意義が出てくるのかなと思っています。
“製造業感覚”がゼロだった自分に気付いた瞬間
─PERCHに入居したのは、どのような経緯からだったのですか?
小林:PERCHに入ったのは会社の創業からちょうど10年目、2017年でした。映像制作1本で会社を興し、多いときは5〜6人ぐらいの社員を抱える規模になりましたが、そろそろ10年を迎える時期から、映像制作自体が特別なことではなくなってきて市場が縮小していたんです。受注仕事だから「こういうものを作ってください」と注文をもらってから作り始めて、納品してお金をもらうのが当たり前で、それを続けてきたわけですが、市場縮小に直面して、注文が入らないことには何もできないと痛感しました。
─その行き詰まりを、どうやって克服されようとされたのですか?
小林:仕事への行き詰まりは感じていたものの、その焦燥感をどのように次の仕事につなげればいいのかまったく分からずに、ただこれまで通り、映像を作りたいからやっているだけの状態でした。それを見かねたのか、ある人がPERCHの梅澤さんを紹介してくれたんです。初対面の梅澤さんに映像以外の事業に手を広げたい、「スマ缶」をやりたいと説明している最中、梅澤さんはずっと口を結んで腕組みをしてましたね(笑)。一方的な僕からの話に「そうだなあ」「すごいんだな」と相づちを打って、最後に「今、うちでこういうのやってるんです」と一言だけ梅澤さんは口にして、PERCHのチラシだけを置いて帰っていきました。思い返すと、焦燥感を感じていた自分に「じゃあ、一緒にやりますか」と声を掛けてくれたのは梅澤さんだけだったんですよね。
─印象的なファーストコンタクトですね(笑)。PERCHにはその直後に?
小林:いや、PERCHに入居したのは3カ月ぐらいたってからでしたね。それまでの間にも時々PERCHへ遊びに行って、工作機械を貸してもらって「スマ缶」のプロトタイプ作りを手伝ってもらったりしました。そのときに梅澤さんの工作技術の高さを目の当たりにして、ショックを受けたんです。自分が趣味として続けているくらいでは、到底達し得ないレベルで物作りができる人が世の中にいるんだなって。僕が3カ月ぐらい悩むところ、5秒ぐらいで「こうすりゃいいんだよ」と解決しちゃうのを目にしちゃうと、自分はこのままではダメだなと思って、PERCHに来ることに決めました。ちゃんと原価意識を持って、量産しようと思えばできる体制にまで整えてから製品を売り始める“製造業感覚”は、僕の頭の中にはまったくなかったもので、梅澤さんに出会ってPERCHに来なかったら、危うく知らないまま人生が終わってしまうところでした。「スマ缶」も趣味レベルのままだったら、世に出てはいなかったです。
PERCHは「サービスを作りたい人の“胆力”が試される場所」
─PERCHのメンバーはどんな人ですか?
小林:私もそうですが、仕事と趣味との境目がない人が多いですね。やりたいと思っている仕事をやっている人というか、やらなければいけないと思いながらやる仕事をしている人はあまりいないですね。僕が思いついたアイデアを他人に話すと、誰からも「バカじゃないの?」ってよくいわれますけど、PERCHのメンバーの反応はちょっとだけ違っていて、若干の笑いを含んだ「バカじゃないの?」にしてくれますね。
─突き放すのではなくて、共感も含まれたようなニュアンスですね。
小林:そうですね。共感もありますが、許容してくれる度合いも大きいかな。「もっとこうしたら?」ともいってもらえますね。「スマ缶」が一応事業っぽくなったのはPERCHのおかげも大きいです。まだ何にも実績がないときに、PERCHメンバーが富山城の観光イベントの仕事を紹介してくれて。
─実績がないころですか?
小林:木製の台とプリンターだけ、実績どころかまさに何もない状態で。1人で「スマ缶」を売りに行きました。そこで初めて、「スマ缶」をお客さんに買ってもらったんです。500円でした。結果としては全然売れなかったけど、紹介してもらえなかったら、そんな機会もなく、内輪だけでやって終わっていたんじゃないかなと思うんです。厳しいながらも愛情がありますね。新型コロナの影響で、飲み屋でさえもバカ話がしづらくなった今、「もし、こうだったら?」なんていう荒唐無稽な話をする場だったり、それを笑いに変換する場って、より必要とされるような気がします。そういうのは、やっぱり日ごろからやっておかないと出てこないですからね。
─最後に、小林さんの目から見たPERCHはどんな場所でしょうか?
小林:製品にしろアプリにしろ、「顧客に売れるものを作ること」で、なおかつ「いくら払ったら、どんなものができるかを可視化できる」のがサービスだと思うんですね。
サービスを作りたい人がPERCHにいると、魔法のようにサービスができる場所。PERCHに来たころの僕のように「打って出なきゃ」という人が来ると、メンバーにあーだこーだと鍛えられて、いろんなサービスが持てる場所だと思います。優しくはないですね。厳しいです。しつこく言い続ける、やり続けているとチャンスをくれる。チャンスをくれるといえば聞こえはいいけど、試されるわけですよね。「機会をあげるけど、やれるもんならやってみろ」という厳しさが裏には必ずあります。
せっかくもらったチャンスを生かせなかったら、チャンスをくれた人の面目もつぶすことになるし、「一回しくじったら終わり!」という気持ちでやってます。そのときはもう本当に必死です。そういう意味ではチャンスなんてくれずに、「夢、いいよね、面白いじゃん」って言ってくれるだけのほうが、あったかい場所だと言えばそうかもしれません。
たぶん、企画の段階で止まってしまうのか、企画未満の“こんな感じ”というところで止まってしまうのか、そういう本当に些細な違いですよね。そこを突破するのが胆力で、自社が提供して顧客に売れる物を作りだして価格の決定権もある「サービス」を立ち上げてからが、スタート地点なんだろうと今は思います。それに気付かせてくれた場がPERCHですね。
─「スマ缶」がサービスとしてスタートしてから、思いを新たにしたことはありましたか?
小林:「スマ缶」で忙しくなったところで、新型コロナウイルスの影響をもろに受けて、イベントが軒並み中止になってしまって。困っていたら逆に映像制作の需要が増えて、仕事の引き合いが続々舞い込んできたんです。オンラインでのライブ配信や、リモートワークに対応して営業資料を動画化するなどですね。「スマ缶」を始めたことで、映像制作の仕事がないときも会社は続けられたし、いまの映像需要の増加に応えられたわけですから、やはりサービスはこれからも作り出していかなければならないと考えています。
─新しいサービスの企画も、もう思い描いているのでは?
小林:これもコロナ禍で生まれたニーズからですが、見学ツアーを360度の全天カメラを使ってVRコンテンツ化するサービスも手がけ始めました。いままでなら映像制作の一環でしたが、これを事業として新たなサービスにしたいと思い、着々と進めている最中です。ぜひ期待してください!
スマ缶 Promotion Video
株式会社K-relations/小林 健太郎
思いついたら何はともあれまずトライ。そんな小林社長を中心に、しっかり者のスタッフさんが脇を固める、映像制作会社。積み重ねた経験と実績が自慢です。
企画・演出・CGを駆使した映像や、「今、ここにない『未来』を映像化する」をコンセプトにした未来動画の制作などを行います。
近年では、スマホで撮影した写真をその場で缶バッチにできる、「スマ缶」事業を展開。
イベントや観光地に現れては、楽しい缶バッチ制作に勤しみます。
取材編集/常山 剛